2010年10月29日金曜日

太陽光バブル 成長に影 「官製特需」狙い、メーカー乱立

 公的助成が生み出した“特需”で太陽電池の国内市場が活況に沸く一方、バブル的な様相も見せ始めている。政府や自治体が打ち出した太陽光発電への手厚い補助制度をにらみ、メーカー各社は増産へシフト。ビジネスチャンスとみた異業種の参入も多く、政策効果が現れる一方で、供給過剰の懸念も頭をもたげてきた。当面の需要拡大は確実とはいえ、時限的な助成措置が縮小すれば、一気に失速しかねない危うさもはらむ。安定成長へのソフトランディングは、市場の独り立ちを可能にするコストダウンの成否にかかっている。(森川潤)

 ◆パネル関連で300社

 「あのブースの企業を知っているか」「いや、わからない」

 3月上旬、東京江東区で開かれた太陽電池関連事業の見本市会場で、大手メーカーの担当者同士がこんな会話を交わした。大手より広いスペースを占めた出展企業の正体は、新規参入組の中国系メーカーだった。

 太陽光発電の関連企業はここ数年、先行メーカーの担当者でさえ正確な実態を把握できないほど、飛躍的に増えている。パネル関連産業だけで世界で既に 300社近いといわれ、まさにバブルの様相を呈している。中でも、成長期待が大きい日本市場への参入は勢いづいている。

 「太陽光バブル」の崩壊には先例がある。約25年にわたって太陽光発電の電力を通常の3倍の価格で買い取る制度を持つスペイン政府が、昨年、方針を転換。新興メーカーなどの参入で導入量が2008年に 260万キロワットと世界一の規模に膨れあがり、一般電力の料金が上がる弊害が生じたことから、上限を50万キロワットに制限した。当時の日本と米国市場の総量を上回る市場が一気に消え去ってしまった。

 この結果、新興メーカーなどは過大な在庫を抱え、乱売で太陽電池パネルの価格は3?4割も下落。耐えきれないメーカーが相次いで倒産する「スペイン?ショック」に陥った。

 ◆増える異業種参入

 欧州市場で行き場がなくなった海外メーカーが目をつけたのが、日本だ。米政府が「グリーン?ニューディール」政策に盛り込んだ太陽電池発電所計画の実現には時間がかかりそうで、「小規模でも成長が見込める日本に一時的になだれ込んでいる」(京セラ幹部)という。

 太陽光発電協会によると、太陽電池の国内出荷量は09年10?12月期に前年同期比約3倍の19万キロワットに急伸し、09年の1年間では前年比約2倍の48万キロワットとなった。13年ごろにはさらに2倍の 100万キロワットになるとの予測もある。

 呼び水となったのは、09年に政府が2年ぶりに再開した補助制度にほかならない。住宅用太陽光発電システムに対する1キロワット当たり7万円の助成に、自治体独自の補助も併せれば、3キロワット程度のシステムの実費負担は「販売価格の7割以下で済む」(シャープ)という値引き効果が大きかった。太陽光発電などを対象に昨秋スタートした余剰電力の買い取り制度も、普及を後押しした。

 市場の拡大を見込み、異業種の参入も増えている。精密機器メーカーのコニカミノルタは3月2日、有機薄膜太陽電池の事業化を発表。記者会見で松崎正年社長は「将来の成長の核となる事業にする」と言い切った。

 計画では、4月中に米ベンチャー企業「コナルカ?テクノロジーズ」との共同開発に着手し、国内に合弁会社を設けて13年度をめどに量産を始める。日本やアジア各国へ売り込み、「5年以内に売上高を5 00億円規模としたい」(松崎社長)という。

                   ◇

 ■パネル増産 強まる過剰感

 大手企業では、石油精製販売の昭和シェルや自動車メーカーのホンダも参入へと動き、電機メーカーながら静観してきた東芝も今年から、米サンパワー社の太陽電池パネルを調達して住宅向け市場に販売する。

 個人住宅の虫駆除を手がけるサニックス(福岡市)は、低価格の韓国製パネルを組み込んだシステムを西日本を中心に販売。海外メーカー製のシステムを用意する国内住宅メーカーも増えている。

 日本政策投資銀行産業調査部の清水誠課長は、「パネルを自社で生産せず、低価格の輸入パネルを仕入れて販売するビジネスモデルでの参入は、今後も増えるだろう」と分析する。

 実際、家電量販最大手のヤマダ電機が09年、パネルで世界シェア3位の中国サンテックパワーと提携して参入。シャープや京セラの寡占状態だったパネルの国内市場は、輸入品が1割強のシェアを持つようになった。

 その一方で、市場拡大に距離を置く動きもある。3月末に世界最大級の堺工場を稼働させたシャープは、パネルの生産計画を当初の3分の1に当たる年間16万キロワットにとどめた。日清紡ホールディングスもパネル製造装置を生産する2工場の建設凍結を3月に発表した。「世界的な生産の過剰状態はまだ解消されていない」(清水課長)ためだ。

 業界関係者は、「各社の増産計画を積み上げると、想定される市場規模の2?3倍に達する」と、供給過剰の危険性を指摘する。太陽光発電所など「メガソーラー」の需要を多く抱える欧米市場とは違い、住宅向けが9割を占める日本市場は世界の7?8%と規模が小さく、「ここ数年で販売価格は大幅に下がったものの、現時点では公的助成がないと成り立たない」(三洋電機幹部)のが実情だ。

 「数少ない成長分野」(清水課長)とはいえ、スペインと同じように特需がバブルに変わってしまう事態は「他人事」ではない。太陽電池関連企業は、バブルを警戒しつつ、コストが上がらないように工場稼働率を維持し、政策や価格の変化にも迅速に対応するという難しいかじ取りを迫られている。

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引用元:信長の野望 総合サイト